「良かった……大人しくなったみたい」

「そうみたいだな」

「智君の声が聞こえたのかな?それとも、お腹をトントンッてされて眠くなったのかな?」

「どうだろうな?どっちにしても、素直な良い子のようだ」

「うん……会えるのが楽しみ」

何度か蹴られたお腹はまだ少し痛むが、智大が変わらず優しく叩いていて痛みも徐々に和らいできた。
優しいリズムのおかげでお腹の子だけでなく藍里まで眠ってしまいそうになり、そっと智大の手に触れた。

「ありがとう、智君。もう大丈夫。これ以上は私も寝ちゃいそう」

肩を少しだけ竦めてそう言うと、智大は手の動きを止めずにふっと笑った。

「眠ったらいい。後で俺が運んでやる」

「や……でも……私、重いから……」

お腹に赤ちゃんがいてみるみる成長している分、勿論藍里の体重も以前と比べて増えている。
好きな人に抱き上げられて重いと思われるのは、例え妊娠中だと理由があったとしても避けたかった。

「気にするな。藍里は普段から軽いから子供分増えたとしても問題ない」

「そ、それでも……」

「俺が藍里と子供を運びたいんだ。それならいいだろ?」

智大の有無を言わせない言葉に藍里は、うう……。と恨めしく声を漏らした。

「……重たくて、やっぱり無理ってなっても知らないから」

「そんなわけないだろ。幸せの重みってやつなんだから」

負け惜しみの言葉に笑っている智大に若干悔しく思いながら、藍里は徐々に訪れてきた睡魔にゆっくりと目を閉じた。
まるでそれが合図だったかのように智大の唇が口に触れた気がしたが、藍里はそのまま眠りについた。