すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「あ……えっ、と……大、丈夫……」

「無理するなよ?」

途切れ途切れになんとか答えれば、智大が知らぬうちに汗ばんだ額にかかった前髪をそっと避けてくれた。
微かに触れた指に藍里が目を細めると汐見が、ふんっ。と鼻をならした。

「か弱いふりして気を引くなんて、卑怯だ」

「永瀬の嫁さんはそんなことしない。……嫁さん、部下が申し訳ない。こいつは永瀬に強い憧れを持つと同時に異常なほど崇拝していて……」

「す、崇拝……?」

「あの、前にお会いした時に、先輩のことを尊敬してる後輩がいるって話したのを覚えてますか?」

「尊敬……あ!」

確か妊娠が判明した次の日。
仕事帰りの公園の前で、ブレイブに飛びつかれ入江と吉嶺に会った。
そして二人に家まで送ってもらっている時にそんな話を聞いたような気がして、藍里は小さく頷いた。

「あの話の後輩がこいつ……汐見なんです。汐見は永瀬先輩に憧れて特殊班に入ったような奴でして……簡単な話、奥さんに嫉妬してるんですよ」

「嫉妬……」

だからあのように睨んできたり、拗ねた表情をしたり、あんな言葉を発したのかと理解した。
理解すると同時に吉嶺が智大に対して似たような言動をしていたことを思い出し、同じようなタイプなのだと思うと恐怖は薄らぎ、少しだけ納得し安堵の息をはいた。