藍里がやっと朝食を食べ終わった頃には午前中にやらなければいけない家事は全て終わっていた。
手際の良すぎる智大に藍里は少しだけ落ち込むが、ボヤボヤしてはいられないので藍里なりに急いで出掛ける準備をして待っていた智大の元へと向かった。

「あ、あの……」

「準備出来たのか?」

少し離れた場所から声をかけるとソファに座って寛いでいた智大が振り返った。
こくこくと頷くと、智大は無言で立ち上がり玄関へと向かう。

これから車で食料や日用品を纏め買いするのだけれど、智大と二人きりで逃げ場のない狭い場所に暫くいないといけない事に毎回のことながら緊張していた。

当然智大は運転席に乗るが藍里は毎回乗る場所に迷ってしまう。
後部座席にするか助手席にするか……暫し車の横でウロウロとしていると智大が無言で助手席の座席を叩いた。

これも毎回同じで、智大に指示されて漸く恐る恐る助手席のドアを開いて座りシートベルトをすると、まるで命綱のような気持ちでそれをギュッと握る。
その一連の動作を横目で見ていた智大はエンジンをかけるとすぐに車を走らせた。

朝ご飯の時に決めていた目的地に向かって穏やかな音楽が流れる中、車を走らせる智大との会話なんてものはいつもなくて、藍里は窓から見える景色をただぼんやりと眺めていた。