〈智大side〉

完全に脱力し、目を瞑って動かなくなった藍里の赤みがかった頬を手の甲で撫でると、智大は藍里の額に自分の額を合わせる。
さっきまでキスをしていたのを抜きにしても微かに熱く感じる体温と早く感じる呼吸に、やはり微熱があることを察すると眉を潜めた。

“妊娠中の悪阻は酷い時は酷いし微熱が続いてしんどいらしいから、注意してみてやれよ”

そうアドバイスしていた室山の言葉を思い出しながら、智大はじっと藍里を見下ろす。

智大が藍里に微熱があると気付いたのは家の前だった。
藍里の様子を思い出してみたが、恐らく微熱があるのを隠して無理して散歩に出たわけではなく、藍里自身も気付いていなかったのであろうと結論付けた。

「んぅ……」

寝返りをうった藍里から離れて静かに寝室を出ると、その足でキッチンに向かった。
長い時間食べていなかったから、きっと目を覚ますと空腹で気持ち悪くなるだろうことを予想して、すぐに食べられるように消化に良いお粥を作る。

寝室に戻ると自身の部屋着を数枚出し、わざとらしく寝ている藍里の隣に置いた。

目が覚めてこれに気付いた時、藍里は喜ぶだろうか、意地悪だと怒るだろうか、それとも恥ずかしさのあまり顔を赤くして何も言えなくなるだろうか。

色々な表情を見られることを幸福に思いながら、智大は目を細めて穏やかに眠る藍里の頬をそっと撫でるのだった。