「別に、わざわざ俺の服を着なくても新しいのを買えばいい」

「で、でも、智君の服なら大きくてブカブカだし、お腹が大きくなっても余裕で着れて……ううん、むしろ丁度良くなると思うの。
だから、貸してもらえれば新しい服を買わなくてもすむし、節約にも……」

「数枚新しい物を買っても支障はないだろ?」

「そ、そうだけど、でも……」

「それなら、ちゃんと藍里に合った服を選んだ方がいいんじゃないか?」

心底不思議だとでも言いたげな智大に藍里はそれっぽい理由を並べ立てるが、真っ当な意見にすぐに負けてしまいそうになる。
どうしようかと顔を俯かせていると、智大が不意に身を屈めて藍里の耳に顔を寄せた。

「それとも……どうしても俺の服じゃないといけない理由でもあるのか?」

「っ……!」

耳に息が当たりピクッと反応して慌てて顔を上げると、智大が少し意地の悪い笑みを浮かべていた。
その笑みを見て、ようやくからかわれていたことに気付くと、藍里は顔を赤くさせてプルプルと震えだした。

「い……意地悪っ!」

「何とでも言え。素直に言えない藍里が悪い」

「智君がそれを言うっ!?」

長年素直にならずに拗れた関係を作り、すれ違い、誤解したまま結婚してしまった原因である智大に言われたくない言葉に過剰に反応すると、智大は堪えきれないとでも言うように吹き出して笑い始めた。