「智君?あの……」

「……」

「赤ちゃん……」

「……」

何も話さない智大に、藍里の不安はどんどん募っていく。
いつか欲しいと言っていた子供は、もしやその場のノリの話だっただけで本当はいらなかったのかと、そう思ってしまうほどに智大は何の反応も示さなかった。

悲しくなってきた藍里は、嬉しさを共有したくて差し出していたエコー写真を持っていた手をゆっくり下ろそうとした。
しかしその手は最後まで下がりきることなく、武骨な手に突然腕を掴まれたと思ったらその勢いのまま強く腕を引かれた。

「きゃっ!?」

ほんの一瞬の間に藍里は智大の腕の中に囲われ、逞しい胸板に顔を押し付けられるような形で、普段の智大からは考えられないほどの強い力で抱きしめられていた。

「っ……智く……」

息がしにくいほど抱きしめられ、藍里はパシパシと智大の背中を叩く。
けれど智大の腕の力は弱まるどころか、さらに強まってしまった。

「ん……っ!」

苦しさのあまり声が出る。
本気で離してもらわないと窒息してしまうかもしれないと焦り始めた藍里の耳に微かな声が聞こえてきた。

「……う……」

「っ……?」

「ありがとう……」

震えて聞こえる声に藍里は目を見開くが、すぐに目を細めて智大の胸に擦り寄った。
もう少しだけ苦しいのは我慢しようと思い、藍里は智大の腕の中でそっと目を閉じた。