それは些細な変化だった。
少食な藍里が、最近よくお腹が空くなぁ。と感じることが多くなったり、実際お菓子などを間食する回数が増えただけの細やかな変化。

本当にそれだけの変化だったから不思議に思っただけで特に誰にも言ったりしなかったし、一回の食べる量も増えてないので智大に気付かれていなかった。

だから、いつも喘息の薬を貰いに行く大きな病院でその事を話すと検査を勧められ、結果を産婦人科から聞かされた時には青天の霹靂と言った感じだった。

「ご懐妊です」

「……へ?」

思わず変な声が出てしまった藍里だが、目の前の医師は気にすることなくにっこりと微笑み、先程よりもゆっくりと分かりやすく話した。

「永瀬さんのお腹の中に、赤ちゃんがいますよ」

「え、ええぇぇぇ!?」

智大や千栄、吉嶺と赤ちゃんの話をしてから半年。
お腹に赤ちゃんが来てくれる気配が全くなくて内心気落ちしていたのだが、実際に妊娠していると言われても実感などなく、ただ目を丸くして驚くばかりだった。

「食べる回数が増えたのは食べ悪阻ですね。空腹になると吐き気がすると思うので、小まめに食べてくださいね」

「は、はい……」

「これがエコー写真になります。まだ週数が早いので小さく写っているのは胎芽……赤ちゃんのお部屋になります」

「……赤、ちゃん……」

すっと差し出されたエコー写真には、ぼんやりと白い物が写っていた。
これが赤ちゃんのいる所だと言われ、藍里は未だに呆然としながら写真を受け取り、食い入るように見つめた。

「次は来週に来てください。その時には、赤ちゃんの心臓が動いているのを確認できるかもしれません」

「心臓……」

驚きすぎて反応が薄くなってしまっている藍里に、医師はにこりと笑った。

それからどうやって帰ってきたか覚えていない。
智大が帰ってくるまでの長い長い時間、藍里は何も手につかず、エコー写真と自分のまだ変化のない腹部を飽きもせず何度も交互に見ていたのだった。