「眠いのかな……寝ちゃう?」

囁くように小声で聞いてみるが当たり前ながら返事はなく、千栄の赤ちゃんは目を閉じてスヤスヤと眠りだした。
途端に重く感じる赤ちゃんを抱き直し、まだ論争している三人に目を向ける。

智大と見合いをすることになった時には絶望しかなかったのにと穏やかな気持ちで三人を見ていると、不意に智大がこっちを見た。

「そいつ寝たのか……。重いだろ、代わる」

「あ、ありがとう……」

そっと赤ちゃんを智大に渡して疲れた腕を擦っていると、智大はまだ言い争っている千栄と吉嶺を見て、それから藍里を見た。

「……娘がいいけど、息子でもいい。藍里との子供ならどっちでも」

「うん……」

「でも、どっちが生まれても、俺の中での一番は永遠に藍里だけだからな」

視線を反らし、耳を赤くして言った智大に藍里は一瞬固まると、智大の肩に手を置いてグッと顔を近づけた。
触れてすぐ離れる頬へのキスは藍里から智大への初めてのキスで、智大は最大限に目を見開かせると藍里は真っ赤な顔をしたまま智大を見つめた。

「わ……私も、ずっと智君が一番だからね」

千栄と吉嶺に気付かれないように小声で言えば、智大は暫し呆然としていたようだが、やがて目を細めて微笑んだ。

二人の間に穏やかな風が吹き、やがて距離が縮まる。
人知れず触れ合った唇からは溢れんばかりの愛情が伝わっていた。