「藍里」

「ん?な……に……!?」

突然フォークを持つ手を握られたと思ったらそのまま引っ張られ、フォークの先に刺さっていた肉をパクッと智大が食べたのを見て、藍里は金魚のようにパクパクと口を動かした。

戸惑っている藍里を見て智大はゆっくりと口角を上げ、少し意地の悪い顔で微笑んだ。

「藍里がやりたかったら、いつでも食べさせてくれていいぞ?」

「っ!?」

「着替えだって手伝ってくれてもいいんだけどな?」

「も……もうっ!そんな意地悪な顔して言うなら絶対しないっ!」

プイッと顔を背けると、智大は肩を揺らして笑いながら自分の食事を食べだした。
暫くお互い無言で食べていたが、藍里は手の動きを止めると俯いたまま小さく口を開いた。

「……や……やっぱり……」

「ん?」

「やっぱり……たまにお手伝い、してもいい?」

智大が怪我をして手伝っている間、新婚みたいで楽しかった藍里はそれが突然なくなってしまうことに言い様のない寂しさを覚えた。
ダメかな?と聞いてみれば、智大は何故か机に両肘をついて頭を抱えていた。

「お前……家でそんな顔したり言うのは反則だろ……」

「顔?」

「……縋るような顔して、可愛いこと言うなってことだ。襲いたくなる。」

「襲……っ!!」

「今は襲わない。せっかく用意してもらった飯が冷めるからな。……でも、後で覚悟しとけよ?」

「え……ええ……!?」

食事を再開した智大はすぐにペロリと食べ終わってしまったが、藍里は智大の言葉のせいで緊張してしまい、いつもよりかなり時間がかかってしまった。

そんな藍里を智大は静かに笑いながら見つめるので、藍里はさらに食べづらくて仕方なかった。