「大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫……。電車、間に合ってよかったね」

息を整えながら窓に打ち付けるようにして降る雨を車内から見ていた藍里は、隣に座る智大に視線を移して笑った。

「初めての待ち合わせデートに満開の桜。記念の写真に急な雨って、すごく思い出に残りそうだね」

「そうだな」

「またしたいな、デート……」

待ち合わせ場所にいけば旦那が逆ナンされ始めたという、藍里には衝撃的なデートの始まりだったけれど、すごく楽しかった。
スマホを取り出して桜の前で撮ってもらった写真をまた見ていたら、肩に重みを感じて藍里は視線を向けた。

「智君?」

「今度……」

「うん……?」

「……」

「え……智君……?」

何か言いかけていた智大は、藍里に凭れて肩に頭を乗せたまま眠ってしまっていた。
夜勤の後のデートはやはり無理してたんじゃないかと思って申し訳ない気持ちになりながら、藍里はスマホを仕舞うと智大の頭に自分の頭をコツンと当てた。

「ありがとう、おやすみなさい……」

決して聞こえないような小さな声でそう呟くと、藍里は最寄り駅までの間までと目を瞑った。

それから約一時間後。

結局寝過ごしてしまい、起きた時には最寄り駅から大分離れてしまっていたのに気付いた二人は顔を見合わせながら苦笑いしてしまったのも、また良い思い出となった。