「私達も、あんな頃がありましたねぇ」

「……そうだったかなぁ?」

「あらやだわ、おじいさん。まだボケる歳じゃないでしょう?それとも、忘れてしまったのかしらねぇ?」

「忘れるわけないじゃろう」

「そうですよねぇ。おじいさん、昔から照れ屋でしたものねぇ」

なんとものんびりとした口調で、老夫婦は楽しそうに話ながら歩いていった。
それを呆気にとられたまま見ていた藍里は、ハッと自分の今の状態に気付いて真っ赤になった。

ーー私……智君に抱きついて……まだ外なのに……!

恥ずかしさから慌てて離れると、智大はそんな藍里を面白そうに見つめて笑っていた。

「見られたな」

「うん……恥ずかしい……」

「玄関先だからと油断してたな。で、どこに行ってたんだ?」

玄関のドアを開けて中に入るのを智大に促されるまま家に入ると、藍里は靴を脱いでから新しい服が入ってる紙袋を両手で持ち、胸の辺りまで上げて智大に見せた。

「先輩と新しい服を買いに行ってたの」

同窓会に着ていく為だとか智大に綺麗に思ってもらう為だとかの理由は口にしなかったが、智大も詳しく聞くことはせずに、良かったな。と藍里の頭を撫でた。