「ただいま……きゃっ!?」

「おっと……大丈夫か?」

玄関を開けた瞬間に大きな壁のような物にぶつかってよろけた藍里は、腰に手を回されグッと引き寄せられた。

「か……壁だと思ったら智君だった……。お帰りなさい、早かったんだね」

「ただいま。怪我人はやることないから早く帰れって先輩が……って、誰が壁だって?」

「だ、誰でもないです……」

呆れた眼差しで見下ろされ、首を竦めながら謝ると智大はふっと笑った。

「お帰り」

「た、ただいま……えっと、どこか出掛けるの?」

「いや、どこにも」

今さっき出てきたはずなのに出掛けないと言う智大に不思議に思って竦めていた首をそのまま傾げれば、智大は少しだけ視線を反らした。

「藍里の帰りが遅かったから……」

「……もしかして、迎えに来てくれようとしてたの?」

返事はなかったけれど、微かに耳が赤くなっていたのが何よりの返事だろう。
藍里は心に温かいものが広がるのを感じると同時に、智大にぎゅっと抱きついた。

「ありがとう、遅くなってごめんね」

「いや、無事だったらそれでいい。どこか寄ってたのか?」

「うん、先輩が……」

「あらー、こんなところで……仲が良いのねぇ」

後ろから聞こえてきたのんびりした声に弾かれたように振り返ると、そこには近所に住む老夫婦が目を細めて立っていた。