「っ……何で……何でそんなこと言うの……?」

今まで藍里は、智大にこんな風に口答えしたことはない。

それは智大の存在が藍里にとって恐怖の対象だったことも大いにあるけれど、智大の長年の想いを知ってお互い歩み寄れるようになり、数ある事件を乗り越えて今まで存在しなかった絆が生まれ、徐々にその絆が強まった後でもだった。

けれど今回に限っては藍里の意思とは関係なく、口から勝手に言葉が溢れ出ていた。
頬が上気し息苦しさに肩で呼吸をして、誰が見ても明らかに体調が悪いと分かる状態の藍里は睨むように智大を見上げていた。

「お前が言うことを聞かなかったからだろ」

「でも、あんな言い方……っ!」

「分かった、俺の言い方が悪かったのは認める。けれど、どんな言い方をしても内容は変わらないだろう?」

「っ……もういい!智君のバカッ!!」

智大の言葉にカッとなった藍里は、衝動的に家を飛び出そうと玄関に向かおうとした。
しかし智大の隣を横切る瞬間に腕を強く掴まれて、その動きは封じられてしまった。

「離して……っ!」

「そんな状態でどこに行くつもりだ?」

「どこでもいいでしょ!離してよっ!」

普段と違い、藍里は感情の制御が出来ずに声を荒げる。
涙もポロポロと溢れてくるが、拭うこともせずに智大を睨み付けていると智大は眉を潜めた。

「落ち着け、発作がおきるぞ」

「智君に関係ないでしょ!離してってばっ!」

「関係ないことないだろ」

ひよいっと軽々と抱き上げられた藍里は必死に暴れるけれど、現職の警察官で、しかも特殊班に所属していて力のある智大と小柄で非力な藍里では力の差は歴然で、どれだけ抵抗しても離されることなく、藍里は簡単に寝室に運ばれた。