「こんにちは、旦那さん。今日はお休みですか?」

「……」

家を出た瞬間、にこにこと爽やかな笑顔を向けながら挨拶してきた警察姿の吉嶺に、智大がすごく嫌そうな顔をするのを藍里は焦りながら見ていた。

「お休みですか、旦那さん?」

もう一度、あえて同じ言葉で聞いてきた吉嶺に智大は大きな溜め息をつくと、そうだ。と肯定した。

「手なんか繋いじゃっていいですねー。羨ましいなー。柔らかいんだろうなー。
藍里さん、俺とも手、繋いでもらえません?」

握手でもいいですよ。と手を差し出されて後退り戸惑っていると、智大が鋭い目付きで吉嶺を睨み藍里の肩を抱き寄せた。

「誰が触らせるか。仕事はどうした、警察官」

「パトロールも、市民の方々との世間話も立派な職務なんですよ、旦那さん。今日はどこかへお出掛けですか?」

「何で一々お前に言わないといけないんだよ」

「市民の方々の行動の把握も立派な職務の一つだと思うんですよね。それとも、言えないような所へお出掛けですか?」

「本当、面倒な奴だよな。お前……」

終始笑顔の吉嶺に対して、ずっと眉を潜めたままの智大。
あまりにも仲の悪い二人に、藍里は慌てて口を開いた。

「て、天気がいいので公園に行こうってなって……」

「へぇ!いいですね、公園!今日は晴れてて気持ちも良いですし、きっと楽しめますよ!
向かう公園は例のリスのいる公園ですか?」

「そ、そう……です……」

藍里が会話に加わったからか吉嶺は見るからにテンションが上がっていて、心なしか声も大きくなっていた。
そのテンションにビクビクしながら頷くと、吉嶺は不意に智大が持っている荷物に目を向けた。

「もしかして、その荷物はお弁当ですか?藍里さんの手作り?」

「そう、です……けど……」

「いいですねぇ、手作り!本当に羨ましい!今度俺にも作ってほし……」

「本気でいい加減にしろ。行くぞ、藍里」

肩を抱いていた手が離れたかと思うと手を取られ、半ば強引に歩かされた。
すれ違い様、吉嶺に小さく会釈すると吉嶺は笑顔で手を振っていたが、その後ニヤッと口角を上げて笑っていたのは背中を向けた藍里には知る由もなかった。