静寂の中に、何度か紙を捲る音が聞こえる。
何をするでもなく、ただその音を聞きながらぼんやり座っていると、やがてパタンと本が閉じられる音がした。

「疲れてるのか?」

「……え?あ……そんなこと、ない、よ……?」

一瞬、自分に話しかけているとは思わず返答に時間をおいてしまったけど、なんとか答えると智大は眉を潜めていた。

「眠気は?」

「ない、よ」

ないと言うか、眠くても眠れなさそうだというのが本音だった。
智大が腰を浮かしたと思うとそのすぐ下、何故かソファを背凭れにして絨毯の上に座りこんだ。
その動きの意味が分からずじっと見ていたら智大が無言で両手を広げ、目線が変わった藍里を見上げていた。

その仕草は智大が夜勤でない時のベッドの上でほぼ毎晩繰り返される、“こっちに来い”と言う合図だった。

藍里が何度か瞬きをしている間も智大は腕を広げたまま、決して自分から動かず藍里が自分から来るのを待っている。
藍里は小さく喉を鳴らすと、覚悟を決めたようにゆっくり腰を上げてソファから下りて智大に近寄った。

お尻の下に智大の太くて固い太股があり、藍里は智大の太股の上に横向きに座らされた状態で抱きしめられていた。
所在無さげにさ迷っていた藍里の手は、躊躇いがちに智大の胸辺りの服を掴む。

そのせいで小柄な藍里でも智大と顔が必然的に近くなってしまい、それが恥ずかしくて智大の首筋に顔を埋めようとしたのだけれど、香ってくる智大自身の匂いにクラクラしてしまいそうになった。