吉嶺が去って暫くすると、いつの間にか気味の悪い視線もなくなっていた。
その後、二人も公園を離れて車に乗り、ショッピングモールの駐車場に着くまでの間、智大は不機嫌そうな顔をしていてずっと無言だった。

最近では居心地が良くて忘れていた、以前のような息が詰まりそうな空気の中、藍里はまるで酸素を求める魚にでもなった気分で智大に手を伸ばそうとしたが、少しも動かすことが出来なかった。

何が智大の気を悪くすることがあったのかと、そう聞きたいだけなのに、智大の存在への恐怖に支配されていた頃の気持ちが簡単に蘇ってきてしまう。
その思いに負けてしまう弱い自分に嫌でも気付かされ、絶望に似た思いに支配されそうになった時、声が聞こえた。

「藍里」

「っ!!」

動かすことの出来なかった手は大きくて無骨な手に掴まれ、大袈裟なほど肩が跳ねてしまった。
いつの間にかショッピングモールの駐車場に停まっていたらしく、運転席から身を乗り出した智大は藍里の顔を覗き込んでいて、その瞳には心配の情が色濃く浮かんでいるのが分かるが、藍里は恐怖の中にいて震えることしか出来なかった。

「どうした、何があった」

「あ……な、にも……」

「何もないことないだろ」

こんなに怯えてる。と言われれば、藍里は震えながら目を伏せることしか出来なかった。