「我慢しかしてこなかったお前が、それを言うか?」

「だ……だって……!」

「眠れなくて睡眠薬飲んでたり、食欲なくして殆ど飯残してたお前が、我慢するなって?」

「う……」

智大の言葉が耳に痛い。
藍里は後ろめたい思いをしながら目を伏せて何も言えなくなっていると、智大は藍里の頭をそっと撫でた。

「なら、お前もこれからは絶対我慢するな。眠れなくなるほどの不安があるなら話して、食欲がなくなるほどストレスが溜まってるなら吐き出せ。
……これでも一応夫婦なんだから、これからはちゃんと支えたい」

「智君……」

智大の言葉に目を丸くするが、すぐに嬉しさの方が勝って藍里の頬は勝手に緩み出す。
ニヤニヤしてしまいそうな頬を押さえるように両手を添えると、その背中に気味の悪い視線が纏わりついた気がしてゾクッとした。

「ちょっと、人の気も知らないで何でそんなにラブラブしてるんですか。早く離れてくださいよ」

「っ!?」

「何だ、お前か」

この場にいなかったはずの声が聞こえて智大と共に声のした方を振り向くと、ふれあい広場の外側の柵に腕を置いて、つまらなそうにこっちを見ている警官姿の吉嶺がいた。

「ねえ、旦那さん。俺、まだ藍里さんの事諦めてないんで、そうやって見せつけるのやめてもらえませんか?」

「お前が勝手にそこにいたんだろ。それに、こいつはもう俺のだからさっさと諦めろ」

吉嶺は恨めしそうな顔をしていて、智大は呆れた表情を浮かべている。
険悪ではないけれど友好でもないその雰囲気に、藍里はただ戸惑った。