翌日、休みを合わせていた二人は買い物の前に藍里のお気に入りである、リスと触れ合える公園に来ていた。
逃走犯に連れ去られる現場となったここには正直あまり来たくはなかったのだけど、何故か智大に強く促されたのだった。

驚いたのは、一人だと確実に恐怖が振り返していたであろう現場も、智大と一緒というだけで心強く感じ、思ったよりは怖くなかったことだった。

やはり後ろを振り返ることなく、真っ直ぐ前だけを見て歩いていく智大の後ろを歩いていると、ふと視界の端に見えた池で何かが跳ねた気がして足を止めた。

「……魚?」

「魚を捕るために鳥が潜ったんだ」

「へぇ、鳥が……え!?」

一人言に返ってきた返事に驚くと、藍里のすぐ隣で未だに水面に残っている波紋を見つめる智大がいた。

「どうしてここにいるの……?」

「は?」

「だって……ずっと前の方歩いてたし……振り向いたりもしないから、止まっても気付かないって思って……」

「振り返らなくても藍里の歩く早さに合わせられるし、立ち止まって距離が離れたら気配で分かる」

一切こっちを見ることなく言われた言葉を、藍里は何度か瞬きしてその言葉の意味を理解する。

その口ぶりから察するに、後ろを歩く自分の気配にいつも集中してくれていて、速度が落ちていないかなど気を使っていてくれたのだろう。
口には出さず行動で常に思いやってくれていたことを知れて、藍里は胸にむず痒い何かを感じると同時に嬉しく思っていた。