〈智大side〉

十二分に頭を冷やしてから浴室を出て、乱暴にタオルで髪を拭きながらキッチンに行き冷たい水を飲んだ。
そして、視線を向けるのはリビングのテレビ台の引き出し。

最近、藍里がこそこそと怯えた表情で何かを隠しているのには気付いている。
気付いている上で藍里から話してくれるのを待っているのだが、今日もその話はなかった。

ふと時計を見ると、時刻は日付が変わる頃。
藍里は既に眠っているだろうと寝室に向かうと、そっとドアを開けた。

案の定、藍里はぐっすりと眠っていたが、ベッドの隅っこで猫のように丸まって眠るのは最早癖で治らないらしい。
自分もベッドに体を横たわらせると、端にいすぎて落ちそうな藍里を真ん中に移動させるために手を伸ばした。
すると、藍里の表情が普段と違うのに気付いて手を止めた。

「ん……や……やだ……」

「藍里?」

「怖……い、やだ……助けて……智く……」

「っ……!」

震える体に伝う涙。
助けを求められた事に藍里が悪夢を……銀行強盗の事件か連れ去られて監禁されたことか、はたまたあの引き出しの中身に関することかを夢に見ているのであろう事にすぐに思い当たると、智大は震える小さなその体を咄嗟に抱きしめた。

「大丈夫。もう大丈夫なんだ」

強く抱きしめ、寝ている藍里に聞こえるように耳元で囁く。
無意識に縋りつき、服を掴んでくる震える小さな手に気付きながら智大はずっと声をかけていた。

「心配するな。何があっても藍里は俺が守る。大丈夫だ」

何度そう言ったか、いつの間にか藍里の震えは止まっていて、服を掴む手はそのままにいつものように静かな寝息を立てていた。
目尻に溜まった涙をそっと唇で拭うと、智大は宝物に触れるかのような優しい力加減で藍里を抱きしめた。