〈智大side〉

初めて藍里と二人で外食に行き、好きな食べ物の話からずっと智大自身が気になっていた圭介の話を聞いた。

その時に泣きながら、分かりやすい“素直な言葉”がほしいと言われたことを思い出すと、今でも愛しさに胸が苦しいほど締め付けられる。
努力することを約束したら藍里のレアな笑顔が見れたことに胸を踊らせると、智大はその笑顔を曇らせないために頑張ることを人知れず決意した。

正直、こんな風に和やかに外食をして、藍里の笑顔を見ながら話せる日が来るなんて思わなかった。
心から嬉しいとは思うがその反面、自分の理性の脆さにも気付かされた。

今智大は風呂場で、久々にシャワーから冷水を出して頭から被っていた。

「可愛すぎだろ……なんだ、あれ……」

藍里の願いが控えめすぎて、それがとても健気で。
それを聞いたのが外ではなく家だったら、本当にヤバかったかもしれない。

衝動的に力強く抱きしめて、そのせいで怯えて可哀想なほど震えられても離してやれなかったかもしれない。

せっかく距離が縮まったのに、また怖がらせては振り出しに戻るどころかもう関係を修復できないかもしれない。
それだけは避けたかった智大は、本当に話をしたのが外で良かったと安堵の息をもらした。