「ここが家じゃなくて良かった……」

「え?」

「そんな風に泣きながらいじらしい事を言われたら、俺の理性が持たない」

困ったように眉を下げ、目を細めて微かに微笑んだ智大は親指で少し乱暴に藍里の涙を拭った。

「本当なら、藍里の願い通りに……あいつみたいに想いを言葉にしてやりたいんだけどな」

「……してくれたら、いいのに……」

男性相手に思ったことを満足に話せない自分を棚に上げてそんなことを言うと、智大は眉を潜めて肘を机に付き、その手で頭を抱えた。

「……今更あんな恥ずかしいこと言えるか」

余程恥ずかしいのだろう、智大の顔は下を向いていて見えなかったが、耳が真っ赤に染まっているのが分かって藍里はクスクスと笑った。
少しだけ顔を上げた智大に恨みがましく睨まれるが、いつもなら怖くて怯えていたその目も、不思議と今は怖くなかった。

「いつかは……言ってくれる?」

「……努力するから待ってろ」

返ってきた少しぶっきらぼうな言葉に、藍里は満面の笑みを浮かべて頷いた。

こんな風に智大と外で楽しく食事が出来るなんて思いもしなかった。
藍里は今までにない穏やかな気持ちでパスタをフォークに巻き付けると、口に運んだ。