「おい吉嶺、何が感動のあまり気絶した、だ。彼女が倒れたのはお前の行動が原因じゃないか!」

「いや、だから俺に会えて感極まって……」

「違うって言ってるだろ。第一、男性恐怖症だって言ってるし、お前に、全く、一ミリも、脈も可能性もない!」

松浦が一言一言区切って言ったのに、吉嶺は全く聞いていないようだった。
心底疲れきったような顔をしている松浦に、藍里は心から同情してしまった。

「えーっと……病院に行く必要がなく、体調も良ければお帰りいただいて大丈夫なんですが、もれなくこいつが付いてくると思います。
どなたかお迎えに来れるお家の方がいらっしゃれば自分も安心出来るんですが……」

「迎えに……」

智大は今日は夜勤で、すでに家にはいないはずだ。
連絡してわざわざ迎えに来てもらうのも申し訳なく感じていると、吉嶺が何やら期待を込めた視線を向けてきているのに気付いた。

「何かあったら問題だし、やっぱり俺が家まで……」

「い、いますっ!」

迎えに来てくれる人っ!と咄嗟に言うと、吉嶺は不満そうな表情をした。
吉嶺の発する言葉があの封筒に書かれた言葉と幾度となく一致していて、その気味の悪さと恐怖に藍里は怖くてしかたがなかった。

吉嶺が差出人だと言う確信はないが、警戒するに越したことはないと藍里は震える手でスマホを取り出し、表示した名前を確認すると目を瞑って、えいっ!と通話ボタンを押した。