どうやら藍里が寝かされていたのは、近くの交番内にある仮眠室だったらしい。
気絶した藍里を吉嶺がここまで運んできたらしいのだが、どうやって運ばれてきたのかは精神的な自己防衛のために聞かないことにした。

「俺はこの交番に勤務している松浦(まつうら)です。こいつも一応警官で、吉嶺と言います」

「な……永瀬藍里、です……」

部屋の壁とドアの前。
その距離を保ったまま、松浦と名乗った警官は自己紹介をした。
吉嶺は一切口を開くなときつく言われ不満そうにしていたが、藍里がチラッと視線を向けるとパッと嬉しそうな顔になった。

「それで永瀬さん、何か持病か体調が悪いところはおありですか?倒れた原因によっては病院までお連れしますが……」

「あ……えっと……私、男性恐怖症で……」

「男性恐怖症?」

「はい……それで……吉嶺さん、に手を握られて……そ、その手にキ……キスされて……それで……」

手にキスされたなんて言いにくいことこの上ないのに、本人の前でそのせいで気絶したなんてさらに言いづらかった。
そんな藍里の心境を知ってか知らずか、吉嶺は藍里に初めて名前を呼ばれたこともあって目に見えて目を輝かせていたのだが、そんな対照的な二人を見て松浦は再び大きな溜め息をついていた。