仕事帰り、藍里はおどおどしながら家までの道を足早に歩いていた。
ここ最近、家にいるとき以外でどこからか視線を感じていたからだ。

纏わりつくような気味の悪い視線。
それは仕事中でも、職場への行き帰りでも、近くのスーパーでの一人での買い物中でも感じた。
毎日ではないのだが、あの封筒の事もあり、どうしても不安で仕方なかった。

いつも通る公園の前を歩いていると、どこからか男性の大きめの声が聞こえたような気がした。
公園の中から聞こえてきた気がしてチラッと顔を向けると、突然大きな犬が飛び出してきた目を丸くする。

ーーゴ……ゴールデン・レトリーバー!?

「ばうっ!!」

「きゃ……っ!?」

犬の勢いは収まらず、目の前にいた藍里目掛けて飛び掛かってきたのでその勢いに負けた藍里は犬に倒されて尻餅をついた。

「ばうっ、ばうばうっ!!」

「や……ちょっ……待って……」

人懐っこい性格なのだろう、このレトリーバーは藍里の顔を舐め回しながら体全体で甘えてくるが、この大型犬は平均30キロはあるので全体重をかけてのし掛かられてはさすがに辛い。
藍里は必死にレトリーバーから離れようとするが、小柄な藍里は大型犬相手に力及ばず、全く身動きが取れなかった。

「ブレイブ!ステイ!!」

男性の声にブレイブと呼ばれたレトリーバーは、ピタッと動きを止めてその場に座った。
その場と言うのは藍里のお腹の上で、藍里はお腹の圧迫に耐えながらレトリーバーの飼い主らしい男性の方を見ると、男性はリードを持って慌てて駆け寄ってくるところだった。