〈智大side〉

藍里がいなくなって暫くは会話もなく静かだったが、入江が長い溜め息と共にテーブルに突っ伏したのを合図に静寂は破られた。

「あー……もう、本当に可愛いですよ、永瀬先輩の奥さん。
小柄で、しょっちゅう涙目になって身長差のせいで上目使いで……さらにはあの笑顔ですよ?あれ、打算じゃなくて無意識ですよね?人妻じゃなかったら僕、絶対に口説いてましたよー」

「そうだな。純粋そうだし、たまに健気に震えているところなんか庇護欲を抱かせるな」

「そうなんですよー。永瀬先輩がベタ惚れなの分かります……羨ましいなー」

「羨ましがってもやらないぞ。もう俺の物だからな。間違っても手を出すなよ?」

既婚者の室山とは違い、入江は独身。
ないとは思うが手を出されない、なんて根拠もないので念のため眼光鋭く睨んでおくと、入江は若干青くなった顔で千切れるのではないかと言うくらい勢いよく首を振った。

「出しませんよっ!人の彼女や奥さんに手を出す趣味ないですし、そもそも永瀬先輩ですよ?
僕なんて相手にならない上に、そんな邪な感情抱いた瞬間に片手で始末されそうです」

「永瀬ならやりかねないな」

入江の言葉に同意しながら、ノンアルコールビールが入ったジョッキを傾ける室山は面白そうに笑っていた。