すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「入江に会った?」

その日の夜、藍里が入江の事を話すと智大の食事の手が止まった。

「うん。ランニング中だったみたいで、偶然ですね。って公園の前で会って……」

「ランニング?偶然……?」

訝しげな顔をしている智大に藍里は首を傾げる。
じっと何かを考えている様子だった智大はやがて呆れたように溜め息をついた。

「入江の住んでる場所はここからかなり遠いはずだから、恐らく偶然じゃないな。
藍里にずっと会いたがっていたからジョギングを装ってわざわざ会いに来たんだろ」

「わ、わざわざ……?何で……?」

「俺の嫁だってことで藍里に興味を持ってたんだ。会ったことあるだろって言ったが、どれも事件絡みだったから話もしてないってこの前喚いてた」

「よ、嫁……」

嫁と言われて微かに赤くなる。
前までは嫌で仕方なかった言葉が、気持ちが少し変わっただけでこんなにむず痒く感じるようになるものなのかと藍里は戸惑ってしまうが、智大はそんな藍里を優しい眼差しで見つめていた。

「室山先輩にも改めて藍里と会いたいと言われていたから、藍里さえ良かったら会ってほしいと思ってる」

「室山、先輩……?」

「藍里が目覚めた時に病室にいた人だ」

「あ……あの……」

体の大きい筋肉質な人……。と思い出すと同時にぶるっと身震いしてしまった。

どうしても強面で体格差が明らかな人を見ると何よりも先に恐怖を感じてしまう。
何度も助けてくれたこともあって、決して怖い人ではないと分かっているのにと軽く自己嫌悪に陥っていると、箸を持ったままだった手に大きな手が被さった。