すれ違いお見合い結婚～相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「怖がられるのは仕方ないことだと分かってる。これからは出来るだけ藍里を傷つけないようにするから」

ぎゅっと抱きしめる力を強められながらその言葉を聞くと、恐怖とは違った意味で目が熱くなり涙が出そうになった。
藍里は智大の胸板に額をくっつけたまま恐る恐るその逞しい体に触れると小さく頷いた。

「うん、分かってる……分かってるけど……怖がらなくなるのは、すぐには無理みたいで……」

力強く抱きしめられるだけで勝手に体が震え出してしまう。
大丈夫、もう怖くない。と自分で言い聞かせても、長年傷つき、恐怖に捕らわれていた心はそう簡単に癒えないらしく、出そうだと思っていた涙はポロポロと溢れだしてしまい止まらなくなってしまった。

「……大丈夫だ。大丈夫だから……」

「ん……」

何度も大丈夫だと智大が囁き、大きな手で背中を撫でてくれる。
その言葉にもう一度頷いて応えると、藍里は俯いていた顔を元に戻してもぞもぞと動いた。
そして自分にとって居心地がいい場所を見つけるとそっと目を閉じる。

「あったかい……」

今まで一人で寝てる時は何故か寒くて仕方なかった。
智大が一緒に寝ている時も体が触れ合わないように極力離れていたので、このような温かさは知らなかった。
思っていたよりも体温の高い智大の体は、震えて緊張で固まっていた藍里を程よくリラックスさせているようだった。

「お前は冷え性だよな。指先が冷たい」

藍里がうつらうつらと微睡んでいると頭上で智大がふっと笑いながら指を絡め合うように手を握った。
未だに無表情な時が多い智大の笑顔は貴重なので、見たかったなぁ。と思っていると額に柔らかな何かが触れる感じがした。

その感触を不思議に思いながら、藍里は智大に抱きしめられたまま静かに眠りについた。