すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

〈智大side〉

藍里がベッドに潜り込んだ頃、智大は浴室のシャワーで冷たい水を頭から被っていた。
昔から頭を冷やしたい時に行っている行為なのだが、藍里と結婚してからは体が凍えてしまいそうな真冬であってもほぼ日課となってしまっている。

「何で……思い通りにいかないんだ……」

水音に消えてしまいそうなほど小さな声で呟くとシャワーを止め、勢いよく頭を振って纏わりついていた水滴を飛ばし、前髪を掻き上げて浴室を出る。
洗濯されて綺麗に畳まれているバスタオルを手に取り些か乱暴に拭くと、手早く部屋着を着て脱衣所を出た。

リビングに戻ると、電気はついているものの藍里の姿はなかった。

智大が風呂に入っている間に寝室に行っていることが多いので、さして気にすることなくキッチンに向かい水を取ろうと冷蔵庫を開けると、目に入ってきたのは量はかなり少ないが先程自分が食べたのと同じメニューである藍里の晩ご飯。
手に取ってよく見てみると、全くの手付かずなのに気付いて智大は眉を潜めた。

暫くして寝室に向かうと常夜灯の明かりの中、落ちてしまうんじゃないかと思うような端っこで何かから身を守るように小さく丸くなって眠る藍里を見つけた。

一度眠りについたら滅多なことでは起きない藍里。
それでも万が一にも起こさないよう音を立てないように近寄ると、ゆっくり手を伸ばしてそっと指先で頬を撫でる。

結婚してから続けている、智大から藍里へのただ一つの控えめすぎるスキンシップだった。