「先輩っ!犯人の拘束完了しました!奥さんは無事ですか!?」

「かなり危険な状態だ。ここは任せるぞ!」

「了解っ!」

武装した警察でごった返す狭い入り口を慎重に出ると智大の藍里を支える腕の力が強くなり、出来るだけ振動を与えないように気を付けながら急いで地上まで下りようとしているのが伝わってきた。

「もう大丈夫だ、よく頑張った。後少しだ」

何度も何度もそう口にしているのを聞きながら、藍里はぐったりと智大の胸に寄りかかる。
力強い腕も、体格の良い体も、男性らしい低い声も、今は全く恐怖を感じず、不思議と安心感で満たされていた。

「永瀬っ!現場から無線で嫁さんの状況は聞いた!ここは任せて救急搬送に付き添え!!」

「ありがとうございます、室山先輩!」

外に出ると拡声器を持って今まで説得に当たっていたらしい人が指示を出す。
智大はそれに礼を言って待機していたらしい救急車に向かって建物内にいた時よりもスピードを上げて走ったのが体に当たる風で分かった。

「救助者の状態はっ!?」

「持病の喘息の発作がおこり重篤で呼吸が減弱。彼女は俺の妻ですので同乗します」

「分かりました、ではこちらへ!」

救急車のベッドに乗せられ救急隊員達がそれぞれ、呼吸が。とか、時間は。とか何かを話ながら慌ただしく動いている。
その様子を他人事のように思いながら、とっくに限界を越えていた藍里はゆっくり目を閉じた。