「っ……ぁ……!」

かはっと大きく息を吐く。
背中に強い衝撃を受けたせいでさらに上手く呼吸が出来なくなり、生理的な涙が流れた。

そんな藍里の様子を男が冷たい視線で一瞥すると、外で警察が何かを必死に言っているのを無視してガラスが割れるんじゃないかと思うほどの勢いで窓を閉めた。

「あの男は来ない、人質は使い物にならない……俺の計画は無茶苦茶だっ!!」

怒り狂った男が床をダンッと踏みつけたせいでさらに埃が舞う。
窓が閉められてしまったので行き場のなくなった埃が縦横無尽に室内を舞い上がるのを自分でも分かるくらい弱々しくなった呼吸でぼんやり見ていると、男は小声で呟きだしたので視線だけを男の方へと向けた。

「こうなったら医者を入れてこいつをもう少し使えるように……いや、そうしたら……俺が捕まる可能性が……。いっその事役立たずなこいつを殺……」

窓に背を向けている男の背が暗くなった。

不自然に思って視線を窓に向けた瞬間、ガラスが割れるけたたましい音と同時にロープのような物を使って誰かが室内に飛び込み、その勢いのまま男の背を思い切り蹴り飛ばした。

「ぐあっ……!?」

突然の衝撃に男は簡単に倒され、その男の上に武装した誰かが馬乗りになって押さえつけた。

「犯人確保っ!!」

その誰かが叫んだ瞬間、部屋の出入り口から同じ格好をした人達が何人も飛び込んできて男を数人で取り押さえる。
その様子を息も絶え絶えになりながら見ていたら窓から飛び込んできた人が顔を上げ、真っ直ぐこっちに向かって駆け寄ってきた。

「っ……藍里っ!!」

力の入らない藍里の体を優しく抱き起こした誰か……武装した智大が悲痛な面持ちで顔を覗きこみ、顔色を変えると急いで藍里を抱き上げた。