それからも警察はたまに拡声器を使って男に呼び掛けていた。
必要な物はないか、食料は足りてるか、人質の様子はどうかと。
対して男の答えは一貫して、煩い。永瀬を連れてこい。の一点張りだった。

警察がいると分かってから数時間ほど経過しただろうか。
外が騒がしくなり、人が増えてきたことを感じたが未だに智大が現れないことに男は苛立ちを隠せないようだった。

「おいっ!あの男はまだか!?こいつがどうなってもいいんだなっ!?」

窓を開け、服を掴まれてさっきよりも乱暴にされながら外にいる警察が見える位置に無理矢理立たされたが、藍里は咳き込みすぎて息が苦しく、外の様子を伺い見ることが出来なかった。

『もう少し待ってくれ!必ず連れてくる!だから一先ずその人に診察を……!』

「駄目だっ!!さっさと連れてこいっ!!」

ぐったりとして自分で動くこともままならなくなってきている藍里の様子が警察側も見てとれたのか、焦りの色が浮かび始めている。

ついに藍里の足の力が無くなり立つことも出来ず男の背に寄りかかる状態となると、男は大きく舌打ちをした。

「立てっ!!邪魔だっ!!」

鋭い声で怒鳴られればいつもなら怖くて飛び退くのに、今はもう意識も朦朧となっていてピクリとも動けない。

ズルズルと崩れ落ちていく藍里の体を男は乱暴に払いのける。
簡単に飛ばされた藍里の軽い体は壁にぶつかり背中を思い切り打ち付けた。