銀のナイフと薬を手にして

「ありました」
「そっか。どうしようかな。社員証も入っているから……ちょっと、そっち行くよ。悪いけどLINEで店名送ってくれるかな。店の前に着いたら連絡する」
「え、でも、雨だけど大丈夫?」
「大丈夫、さっと行って、すぐ帰るから」
て中岡さんは告げて、電話を切った。呆然としていると、みき子がすかさず
「ちょっと誰?」
と訊いた。
「なんか、最近よく食事してる人。さっきまで一緒だったんだけど、忘れ物取りに来るって」
「本当に!?会いたい」
「いや、明日朝早くから会議だって言ってたから。すぐに帰るって」
とわたしは予防線を張った。急に落ち着かなくなって、ごまかすように紅茶のお酒を飲む。地下の店内にいると雨がやんだのかも分からない。
ちょっと出てくる、とみき子たちに告げて、まだ濡れているビニル傘を手にして階段を上がる。薄暗いせいか足元がかすかにふらつく。
四ッ谷駅近くの橋の上で待っていた。大通りから跳ねる水たまりの音。水面に映った光が霧雨で微細に揺れる。
タクシーが止まって、ドアが開いた。運転手に気さくにお礼を言う中岡さんが見えた。筋張った手の甲。大人の手だ、と出会ったときに感じたことを思い出す。
「ごめん。呼び出して。友達は大丈夫?」