「中岡さんは、自分のことが嫌になったりしますか?」
「この年齢になって嫌になったことがなかったら、かなり陽気なアホだな」
「陽気なアホ、ていいですね」
てわたしは笑った。
「この前ね、うちの部署の先輩と接待に行ったんです。そうしたら接待相手の男性がうちの先輩のことを前から気に入ってたらしくて」
「うん」
「三時間、ずうーっと先輩のことだけ口説き続けてたんです。その接待の席で」
「ええ?君がいるのに」
うん、とわたしは情けない笑みを浮かべて頷いた。
「その先輩、美人だけどさっぱりしてて、女性から見ても素敵だし。だから、嫉妬とかじゃないんですけど、なんていうか、自分がいる意味がわからなくなっちゃって」
「そりゃあ失礼な話だなあ。若い男か」
「ううん、わたしよりも一回りくらい上。それこそ中岡さんの方が年齢近いんじゃないかな」
中岡さんは腕組みすると、するっとほどいて
「君はいい子だな。怒って帰ってもいいくらいの話だよ」
としみじみ言った。
ゆっくりと呼吸が落ち着いていく。島の上のほうにいても潮風は吹いてくる。
このひとにもっとそばにいてほしい。
そんなことを思って積極的に恋を始めるには、三十歳という年齢はいささか現実を中途半端に知りすぎている。
「この年齢になって嫌になったことがなかったら、かなり陽気なアホだな」
「陽気なアホ、ていいですね」
てわたしは笑った。
「この前ね、うちの部署の先輩と接待に行ったんです。そうしたら接待相手の男性がうちの先輩のことを前から気に入ってたらしくて」
「うん」
「三時間、ずうーっと先輩のことだけ口説き続けてたんです。その接待の席で」
「ええ?君がいるのに」
うん、とわたしは情けない笑みを浮かべて頷いた。
「その先輩、美人だけどさっぱりしてて、女性から見ても素敵だし。だから、嫉妬とかじゃないんですけど、なんていうか、自分がいる意味がわからなくなっちゃって」
「そりゃあ失礼な話だなあ。若い男か」
「ううん、わたしよりも一回りくらい上。それこそ中岡さんの方が年齢近いんじゃないかな」
中岡さんは腕組みすると、するっとほどいて
「君はいい子だな。怒って帰ってもいいくらいの話だよ」
としみじみ言った。
ゆっくりと呼吸が落ち着いていく。島の上のほうにいても潮風は吹いてくる。
このひとにもっとそばにいてほしい。
そんなことを思って積極的に恋を始めるには、三十歳という年齢はいささか現実を中途半端に知りすぎている。



