濃紺のビロードの箱。

女の子なら必ず憧れる箱。

それが口を閉じた状態で差し出されている。

「もう離れてんの辛ぇんだ。大学卒業したらアメリカに来て俺と一緒にいて」

そう言ってパカッと空いた箱には何も入っていなくて台座に指輪が填められる筋がうっすら見えた。

「3年も離れててお前の指のサイズわかんねぇから朝になったら一緒に買いに行こう」

サヨナラを告げに来たのに、まさかプロポーズされるとは思わなかったのでビックリし過ぎて涙も出ず、ただ龍くんを見つめてしまう。

しかも夜中のシャワー後のスッピンでバスローブ姿…

これはこれでありなのかな?

龍くんがこんなことを言ってくれたのだから、折角内定貰った第一志望の企業には辞退の連絡を入れよう。

「はい、私を龍くんのお嫁さんにしてください」

色々考えていたのでプロポーズから少し時間が経ってからそう返事をする。

龍くんは深いため息をついて私の腕を引き、強く抱き締めた。

「龍くん?」

「……………断られるかと思った」

ギュッと抱き締めてくれる腕に更に力が籠ったのが分かるので私はそっと背中に腕を回して目を閉じた。

幸せを噛み締めるってこういうことなんだ。