「わ、私はキチンとお別れを言いに来たの!そうじゃないとこの恋を一生引き摺っちゃって新しい恋も出来ないから!なのにこんな抱き締められたら………」

もう涙で言葉が続かなかった。

きっと龍くんは「しまった」と思うだろう。

日本で付き合っていた女がノコノコとアメリカまで試合を観に来たのを見付けて気持ちが一時的にタイムスリップしただけだろう。

「けっ、結婚おめでとう。さようなら」

龍くんの腕からするりと身を引き、思い描いていた最後の言葉を告げた。

笑顔は作れなかったけどこれで良いのだ。

そう思ったのにまた腕を引かれて今度はそのまま後ろに倒れこむ。

でもそこには龍くんがいて私を後ろから抱き締めている。

「だから離してってば!」

「婚約なんかしてねぇ」

耳を疑う言葉が降ってきた。

コンヤクナンカシテネェ?

今夜 苦難 貸して ねぇ?

え、ちょっと意味が分からない。

「日本を離れてからも変わらず俺はずっとお前だけだ。お前は違うのか?」

「だって新聞で……」

「ガセネタだろ」

「でも彩月くん怒ってた」

「あいつは元々お前と付き合うのに反対してた」

「それはそーだったけど」

「他には?」

他?聞きたいことなんか3年分あるに決まってる。

でも一番聞きたいのは彼女のことだ!

後ろから抱き締めてられているので龍くんの顔を見上げる。

綺麗な真っ黒な瞳とぶつかった。

「彼女は?綺麗な金髪の彼女。隣の席に座ってて私のリューって言ってたよ」

思い出しただけでも泣きたい気分だ。

「……………俺のファンはみんなそう言う」

凄く不機嫌な声で龍くんはそう言ってそっぽを向いた。

「で、でも!」

「うるせぇ」

そう言って上から龍くんの顔が近づいてきたかと思うと唇が合わせられた。

しっとりとしていて、ふわふわで

キスもあの頃と同じだ

と思うのも一瞬で、すぐに唇を割り、舌が入ってきたかと思うと絡めとられた。

「んっ………ふぅん……」

久し振りの濃厚なキスに息の仕方を忘れ、上手く息継ぎが出来ない。

酸欠で倒れる寸前でキスが止み、私は立っていられなくなった。

そんな私を見兼ねた龍くんは背中と膝の裏に腕を回して軽々と抱き上げた。

そしてヒューヒューと囃し立てられながらその場所を後にした。