いつもの時間なのに輝が来ない。
「武瑠〜」
「おー、鈴ちゃん、ちょっと聞きたいことが…」
聞きたいことがあるのは私もなんだけど…
「「輝は?」」
…あー…
連絡来てないやつか…
輝に限って学校を無断で休むなんて考えづらい。
…何かあったのかな…?
「鈴ちゃん所にも連絡ないのかあ。」
武瑠は少し考え込んでニカッと笑う。
「よし、ちょっくら様子見てくるわ。」
武瑠は普通にカバンを持って教室から出ていく。
「ちょっと!武瑠!」
私も慌ててカバンを手に取って武瑠を追いかける。
「何?鈴ちゃんまでおさぼり?」
「…戻ってくるもん。…多分…」
「多分て。まあいいや。輝とは違うけど、乗って乗って。」
武瑠の自転車の後ろに乗る。
武瑠の背中はがっしりと筋肉が付いてる。
輝はこんなに逞しくないから…
学校からしばらく自転車に乗って輝のアパートに向かう。
「…普通に自転車置いてあるな?」
「うん。」
「また風邪でも引いたのか?」
…どうだろう…
輝の部屋の前まで来る。
インターホンを鳴らす武瑠。
ーガチャ…
「…はい」
輝は、いた。
いたけど…
「…どうしたの。」
言葉に出せないくらい、輝は絵の具だらけだった。
顔にも、髪にも服にも絵の具がついてる。
顔こそ疲れ切ってるけど輝の目はキラキラと輝いている。
「…輝、どうしたの?」
「すげえ格好してるけど…」
流石の武瑠も驚いたみたい。
輝はゆっくりと視線を落として自分の格好を見る。
「…あ、汚い。」
…今気づいたのか輝はふへっと笑う。
「…ちょっとまってて、片付けるから。」
輝は床が汚れないように敷いていた新聞紙を拾い集める。
武瑠と私は玄関から少し入る。
「…ちょっとまだ汚いけど、どうぞ。」
「輝何してたんだよ。」
「僕?絵を描いていたんだ。」
…キラキラと輝くように笑う輝。
いつもの優しい顔じゃないけど、この笑顔も素敵…
こんな顔、はじめてみたよ。
本当に、無邪気な子どもみたい。
「何描いてたの?」
「武瑠だよ。」
絵を立てて私たちに見せる輝。
武瑠の満面の笑顔。
「…あれ?」
今見せている絵とはまたちがうのかな?
もう1枚絵がある…
「こっちのは?」
「鈴と、武瑠。」
優しい笑顔の武瑠と私。
…自分は描かなかったのかな…
「輝は、この中に居ないの?」
「…自分を描くのは得意じゃないんだ。」
輝は眩しそうに絵を見つめる。
「世界に、名前を響かせようと思ってね。
“天才絵師 卯月輝現る”って。」
いたずら好きな子どものように笑って、輝は少し赤くなる。
「あ、天才は言い過ぎかな。」
…天才、だよ。