「ー…輝、また勉強教えてよ。」
「どうせ寝るのに?」
「そう見捨てんなよ〜」
夜。
夕飯をご馳走になってしばらくしてから僕は武瑠に送って貰ってる。
ご飯までご馳走になったのに申し訳ないからいいって言ったんだけど…
武瑠がダメって聞かないから…
「まあ教えるくらいいいけど。僕は厳しいよ。」
「知ってら、輝先生。」
武瑠の背中はがっしりしていて筋肉がムキムキなのが分かる。
…逞しいなあ…いいなあ…
「じゃあ武瑠のために精一杯教えてあげるよ。」
人に教えるのはあまり得意ではないけど…
鈴が理解してくれてるし、多分出来るよね…?
「頼んだぜ、先生。」
僕は武瑠の後ろから降りて微笑む。
「送ってくれてありがとう。お母さんによろしく伝えておいて。」
「無理やり連れてったの俺だし。いいよ。またあしたな。」
武瑠は手を挙げて自転車を漕いで帰っていった。
僕はアパートの階段を登って自分の家に入る。
「…」
…今なら、描けるかもしれない。
満面の笑顔の絵を…
…描いてみよう。
心ゆくまで。
僕はキャンパスを用意して筆と鉛筆と絵の具を取り出す。
…背景は…イメージに合うので…
今から描くのは武瑠。
武瑠には笑顔が良く似合う。
だから描いてみようって思ったんだ。
「…うん、これかな。」
背景は、優しい緑色。
森をぼかした感じの背景にした。
武瑠は優しいから。
「…」
前の鈴を描いている時とは違う。
鈴は儚い感じだったけど、武瑠は力強い感じ。
優しいけど力強い武瑠。
楽しく笑っている本当の笑顔。
…僕にはない笑顔。
「…いいなあ…」
鈴も、武瑠も。
僕にはない笑顔を持ってる。
「…やっぱり難しいなあ…」
僕が知らない顔を描くのは難しい…
武瑠なら。鈴なら。
描けるかもなんて甘かった。
僕自身がその顔を出来ないと描けない。
鈴はいつも前にいて笑っていてくれてたから描けた。
けど…
「…むり、か…」
…でも。
描きたい。
武瑠には助けて貰ってばかりだから。
描きたい、優しい笑顔の武瑠を。
「…よし。」
諦めたら終わってしまう。
諦める暇があれば筆を走らせる。
…コンクールで優勝した時に僕がコメントで答えた言葉だ。
その僕が諦めるなんて、していいわけが無い。
「…」
武瑠の優しい性格を。
楽しそうな笑顔を。
ぶっきらぼうだけどちゃんと周りを考えているところを。
どうしたら表現出来るだろう。
【卯月輝side END】

【佐倉鈴side】
いつも通り学校に来たけど…