私が、心を開いて話せる、唯一の存在。
【佐倉鈴side END】

【卯月輝side】
走って美術室に駆け込んできた佐倉さんを見て驚いた。
「佐倉さんのおかげで描こうと思えたよ。
僕、頑張るよ。」
クラスメートの佐倉さん。
いつしか、僕の中でこんなに大きな存在になるなんて…
佐倉さんの笑顔を守りたい。
僕の中での佐倉さんはいつも笑顔だから。
この笑顔を曇らせたくない。
「…うん、楽しみにしてる。」
佐倉さんが教室の扉を開く。
クラスメートの視線が僕達に突き刺さる。
「あ、…」
佐倉さんは笑顔で自分の席に戻る。
僕も、下書きをするためのノートと共に席に着く。
大人しく準備をして、授業までノートに下書きを描く。
…佐倉さんのイメージ…
僕の中で佐倉さんは…
【卯月輝side END】

【佐倉鈴side】
後ろの方の席の卯月くん。
ちらりと彼の方を見ると、ノートにシャーペンを走らせていた。
鋭くて真剣な顔。
「…おい、またあいつ何かやってるぞ。」
「ほんと。突っ伏して気持ち悪い。」
…卯月くんのこと、何も知らないくせに。
好き勝手言わないで。
「気持ち悪いなんて言わないでよ!」
…私の中で、卯月くんは…
「…はあっ…そんな…こと…いわな…」
…あれ?
…頭がフラフラする…
「ちょ、佐倉さん!」
…また、なの?
「しっかりして!佐倉さん!」
卯月くんの暖かい腕が私を包んでくれる。
「保健室、行くよ。」
卯月くんは私を抱えて保健室へ。
…心地いい。
ずっと、卯月くんに抱かれていたい。
そうか、私…
卯月くんが好きなんだ。
優しくて暖かい卯月くん。
絵を描いている時は力強くて真剣な目。
あの目で、私を見てほしい。
私は…
卯月くんみたいに誇れるところなんてないから、卯月くんが羨ましくて仕方ない。
「…佐倉さん、大丈夫?」
「…うん、落ち着いた。ありがとう。」
昨日ぶりの発作。
子どもの頃からガタが来ている私の心臓。
ボロボロでもう、修復不可能な私の心臓。
弱々しくて今にも止まりそうなくらい脈が低い私の体。
今はもう夏なのにカーディガンが必要なくらい冷え切った体。
「…もう、やだよお…」
「佐倉さん?」
「こんな心臓、要らない…」
なんでこんなに弱いの。
「もっと健康な心臓が欲しいよお…」
心臓移植すれば治るのにドナーがいない。
ずっと待ってるのに…なんで?
「…」
こんなこと、卯月くんに話してもなんにもならないのに…
今だけ、ごめんね、卯月くん…
「…弱音は、吐けば吐くほど、いいんだよ。」
「え?」
「もっと、出してもいいよ。
それで、いつもの佐倉さんに戻るのなら。」
優しい卯月くん。