母さんは僕の頭を撫でる。
「…ひとりで頑張ってきたのね。」
「…うん…っ」
「寂しかったね。」
「うん…」
「死ぬことを誰かに知って欲しかったんだね?」
…そう。
僕は1人で死ぬ分には何も申し分ない。
だけど、死んだ後、誰にも知られずにいるのが怖かったんだ。
「…この絵は、輝が描いたんだね。」
「…うん。」
「彼女のために、輝が描いたんだね。」
…この絵は鈴のために、描いた…
前を向いて欲しいから。
「…前に、絵画を見に行った時に、輝の絵を見つけたの。
同姓同名の人かと思ったけど、輝だったんだね。」
「…うん」
見て欲しかった。
本当の僕を。
僕のことは知らなくてもいいから、僕の絵を知って欲しかった。
…こんなに優しいタッチが出来るんだよって…
僕の心の叫びを聞いて欲しかった。
寂しい。
一人ぼっち。
いつだって絵は風景が背景で人は1人しか描いていない。
…僕の心を映し出していたんだ。
だから、僕の絵に幸せなんてない。
ただの僕の欲求。
…幸せが欲しくて、どうしても悲しい色合いになってしまう。
…でも鈴のために書いた学校にある絵は…
鈴の色をしている。
明るくて優しい色合いになった。
…不思議だった。
…僕でもこんな色、使うことが出来たんだ…って。
「…輝は1人じゃない。」
「…」
「母さんが、絶対に忘れない。」
「…っ…」
「母さんは輝が大好きだから。
また私のところに生まれてきてくれるって信じてる。」
生まれ変わっても母さんの子でありたい。
他の親子より、絆は少ないかもしれないけど僕は紛れもなく母さんの子だ。
「…だから、胸を張って行きなさい。」
「…」
「彼女のために、命を投げ出すなんて、とても立派なことなのよ?」
「…」
「ちゃんと名前の通り、輝いているんだから。
胸に誇りを持ちなさい。」
…母さん…
「うん、ありがとう…」
…母さんは僕より泣いていて。
…なんで僕ってこうも親孝行できないんだろうなあ…
親泣かせの親不孝者だ。
「…輝は母さんの…自慢の息子よ。」
「…母さん…」
「あなたが心臓をあげる女の子の両親に挨拶くらいしておかないとね。」
母さんは泣いていた顔に笑顔を浮かべる。
…やっぱ泣きながら笑うって凄い綺麗な顔だなあ…
「…母さん、手伝って欲しいことがあるんだ。」
…こんなの、頼む方が間違ってるんだけど。
僕は家で描いていた絵を玄関に移動させる。
鈴が来た時、真っ直ぐこの絵が見られるように。
…もう、このアパートに戻ってくることはいから…