…卯月くん、どこ…?
カバンすらない…
私は席にカバンを置いて学校を回ってみることにした。
渡り廊下に差し掛かってふ、と思いつく。
彼がいつも1人でいる場所を。
私はその場所に向かって走った。

ーガラッ
「…佐倉さん?」
「…はあっ…う、づきく…」
「走っちゃダメでしょ?どうしたの、そんなに慌てて。」
思った通りの場所。
授業でも全く使われない美術室。
今でも、卯月くんが掃除しているおかげで綺麗に保たれている。
「…はあっ…はあっ…」
「ちょ、大丈夫?!」
「はあっ…うん、大丈夫…」
絵を描いていたのか…
卯月くんは筆を置いて立ち上がって私の方に来てくれる。
「…今日、カバンなかったから、来ないのかと思ってた…」
「?僕は毎日来るよ?
風邪でもひかない限りは。」
卯月くんは改めてキャンバスを見つめる。
「あのね、佐倉さん。」
「なに?」
「僕、描くよ。絵。」
…卯月くんが。
描いてくれる。
私の好きな、あの絵を…
「…描くの嫌がってたのに…」
「…」
「一体どうして…」
「さあ、なんでだろう。
僕の絵を好きって言ってくれるファンがいるからね。」
私を見て優しく微笑む卯月くん。
「どんな絵を描くの?」
「出来上がったら1番に見せるよ。」
「…卯月くんが描くんだもん。
きっと素敵な絵が出来上がるね。」
卯月くんの絵の描き方。
優しくて癒される。
でもちゃんと芯があって…
きっとこの描き方は卯月くんにしか出来ない。
「でも、あまり期待しないで欲しいな。」
「なんで?」
「久しぶりに描くからね。腕がなまっているかも。」
クスッと笑う卯月くん。
メガネの奥の瞳が優しい。
暖かく見守ってくれる、そんな目。
「完成するまで見ないから…ここで見ててもいい?」
「何も面白いことはないと思うけれど…」
「いいの。」
…絵を描く卯月くんが見たいの。
「それならいいよ。じゃあ、教室に行こうか。」
卯月くんはカバンを持って立ち上がり、私に手を伸ばす。
私はその手を掴んで立ち上がる。
「…クラスのみんなに、病気のこと言わないの?」
「…うん。」
仲良いっていう仲いい子はいないから…
私にとっての友達は…1人でいい。
「卯月くんがいてくれたらそれでいい。」
「女の子の中でも1人仲良い子作ればいいのに。
何も僕みたいな根暗じゃなくても。」
卯月くんがいいんだもん。
優しくて暖かい雰囲気の卯月くん。
背が高いわけでも低い訳でもない、話しやすい高さ。