ープルルル…
夜になってから僕は梨華さんに電話を掛けていた。
…僕から連絡をするのは初めてかもしれない。
『もしもし』
「あ、僕だけど…」
『知ってるよ、登録してあるもん。』
梨華さんはふふっと笑っている。
「…そこに、渉さんも、いますか?」
『いるよ。スピーカーにするね。』
…梨華さんも、渉さんも、いい人だ。
僕に家族にならないか?なんて、もうきっと誰も言ってくれない。
『お、輝か!』
「はい。」
『決心ついたかー?』
…ごめんなさい、渉さん、梨華さん…
僕は…大切な人のために生きたいんだ。
「すみません、僕は、家族になれません…」
『…理由は?』
「…大切な子がいるんです。
その子のために余命を使いたい。」
…後2週間もない。
鈴がいなくなって僕が生きていても仕方がない。
「たとえ、家族になっても、僕は直ぐに死にます。」
『え?』
「…僕は、その大切な女の子の心臓のドナーです。」
…先に伝えておきたいから…
『…そうだったの…』
「再会して直ぐこんなことを言ってすみません。
でも僕は、それでも鈴のそばにいたいんです。」
…僕に光を与えてくれた優しい鈴。
鈴の手術が終わってもそばに居るから…
鈴の中に居るから。
「…でも、2人が言ってくれたことは嬉しかったです。
…梨華さん、いや…母さん。
僕のことは忘れてください。」
『…初めて、母さんって呼んでくれた…』
電話の向こうで梨華さんの嗚咽が聞こえる。
正直、僕も今すぐ大泣きしそうだ。
『輝、こんな情けない母親でごめんね?
でも、輝のそのお願いは聞けない。
…私が、お腹を痛めて産んだ子だもの。』
…母さん…
…親孝行の何も出来ない出来損ないの息子でごめん…
『輝、前を向いて生きてね。
残り少ない時間、精一杯生きて。』
「…うん、ありがとう母さん…
渉さん…父さんも、ありがとう…」
本当の父さんはもう居ないけど…
『輝、いつでも電話してこい。
待ってるからな。』
渉さんも泣いてる…
『泣くなよ、輝。今すぐ会いたくなるじゃないか。』
「泣いてなんか…
…じゃあ母さん、ありがとう。
…またね。」
『元気でね、輝…』
僕から電話を切った。
…そうでもしないと…ずっと話していたくなるから…
電話を切ってから僕は布団に突っ伏した。
「…うっ…母さん…」
何年ぶりだろう…
こんなに泣いたのは…
本当は家族になるのを断った時からずっと泣いてた。
…母さん…
「…う、…うっ…
…うあああああっ…」
母さん…母さん…っ