「ほら、兄ちゃん、行くぞ!」
「ちょっと渉!輝を優しく運んで!」
梨華さんは僕を優しく支える。
「兄ちゃんすまん!痛かったか??」
「…いえ、大丈夫です。」
…悪い人ではないんだろうけど…
「看護師さん!助けてくれ!高校生引いちまった!」
…引いちまったって…それを言うのは…
警察では…
「渉うるさい!」
「あれ、輝くん、引かれたのかい?」
「ええ。」
鈴の主治医のお医者さん。
僕を見て驚いた顔をする。
「輝、病院通ってるの?」
お医者さんより驚いた顔をしているのは梨華さん。
…こんなこと、言っちゃいけないよね…
僕の親権は父さんであって梨華さんとは家族でもなんでもない…
ただ、僕を産んでくれた人ってだけだ。
「…まあ、風邪ひいてた時に…」
「そうなの…」
お医者さんに連れられて僕はレントゲン室に向かう。
「輝くん、腕折れてるよ。」
「だろうと思いました。」
…だって動かないし。
ギプスを嵌めてもらって頭の怪我も手当してもらう。
幸い頭は擦り傷とたんこぶくらいで済んだ。
…右手じゃなくて良かった…
「それより輝くん、さっきの人達は…」
「…僕とぶつかった車に乗ってた夫婦です。」
「そうか。」
…明日、鈴を何で迎えに行こう…
自転車は使い物にならなくなったし…
電話してみよう。後で。
「はい、あまり動かしちゃダメだよ。」
「分かりました。」
僕は一礼して処置室から出る。
待合室に梨華さんがいて僕は驚く。
「どうしました?」
「腕と頭…」
…ん?
ああ、怪我か。
「大丈夫です。」
僕は会計を済ませて外に出る。
警察に一通り説明して僕は歩いて我が家に帰ろうとした。
「待って輝!」
「…」
「…これ、私の連絡先なの。」
「電話番号は知ってます。」
逆に梨華さんはなんで僕の番号を知っていたんですか…?
「…何故、僕の番号を知っていたんですか?」
「…和樹の遺品である携帯…から…」
…そういうことか。
僕の番号は昔から変わってないから…
「そうですか。」
僕は再び歩き出す。
「渉がもうすぐで出てくるから待って!送るわ!」
「…ご迷惑だと思うんでいいですよ。
そういうのは今の子どもたちにしてやってください。」
僕じゃない今の梨華さんの家族の子どもたちに…
「…子どもは、居ないの。」
「え?」
「…私にとっての子どもはあなただけなの、輝。」
…父さんが死んでからも、その前からも、何もしてくれなかったあなたが…
なんで僕の母親なんだ。