『…鈴。』
「うん?」
『疲れたでしょ。早く寝なよ。
また明日迎えに行くから。』
…輝…
私に何を隠しているの?
私は…
輝と秘密を共有することは出来ないの?
【佐倉鈴side END】

【卯月輝side】
…流石に突き放しすぎたかな…
でも、鈴の願いを叶えることはもう出来ないから…
今度は鈴の好きな人と行くべきだよ。
できれば僕だって元気になった鈴と一緒に行きたかったよ…
「…ごめんね、鈴…」
…そろそろ、遺書書き始めなきゃいけないなあ…
神様、お願いだ。
あと1ヶ月は鈴を連れていかないで…
鈴の願いは叶えてあげたい。
「…」
机の上に開いた便箋。
プラ板サイズの絵を入れたやや小さめの紙袋。
ちゃんと傷つかないように包装してある。
その中に入れる手紙を書こうと思って途中で諦めたんだったか…
…これもそろそろ書かなきゃいけないなあ…
僕の想いも、この中に入れよう。
それで、手術の時に鈴の家族に渡しておけば、問題ない。
「…鈴…」
僕の好きな人。
…鈴は、早く苦しさから逃れたいのに、僕のわがままで我慢してもらってる。
だから…せめて手術までは鈴の行きたい所に行って楽しさで心を満たして欲しい。
次行くなら帰り道に鈴が釘付けになっていたお店かな。
パンケーキの美味しそうなお店。
連れてったらどのくらい喜んでくれるだろう。
くしゃくしゃの顔で笑うんだろうか。
「…あ、デジカメ…」
カバンの中からデジカメを取り出してパソコンに接続する。
プリンターも起動させて写真を現像する。
…この写真…
僕も写真に写っている。
確かこれは係員の人に撮ってもらったんだっけ…
鈴がどうしても2人で!って言うから撮ってもらった、初めてのツーショット。
僕も鈴も満面の笑顔で映っている。
この写真は2枚現像しよう。
僕も写真立てに入れて、余韻に浸ってもいいよね?父さん。
…何枚撮ったんだ、僕。
こんなに人を撮るの、好きだったっけ?
…人、じゃないな…
鈴だから、撮ったんだ。
「…全部表情が違う。」
鈴の表情がクルクル変わって見ていて面白かった…
現像した写真をジッパー付きの袋に入れてキーホルダーの入った紙袋に入れる。
鈴への想いと置き土産を着々と進めていく僕。
…あった事の無い母さんは今何してるんだろう。
僕と父さんのこと忘れて違う人生を歩んでいるのかな…
…それならそれでいいんだけどね…
幸せだったらいいんだよ。
【卯月輝side END】