…そうだね。
たしかに僕は鈴の気持ちを考えていなかったかもしれない。
…でもね、鈴。
遺書を書くのは僕の方だよ。
「鈴、どこか行きたいところある?」
「え?何?」
筆を置いて僕は立ち上がる。
「どこか行きたいところ、ある?」
筆も絵の具も全て片付ける僕を見て鈴は慌てる。
「行きたいところ…?」
「うん。」
カチャカチャ言わせながら僕は筆をあるべき場所にしまう。
カバンを背負って僕は廊下へ出る。
鈴は僕のあとを歩いて不思議そうに首を傾げる。
「…あの、ね?水族館、と遊園地…」
「うん」
「体が弱くて行ったことないの…」
「そっか。」
僕は駐輪場へ向かいながら鍵を取り出す。
鈴は困惑した顔で僕の前に立つ。
「あの、輝!」
「ん?」
「さっきのせいで…怒ってる?」
ん?僕が怒る?
鈴に?
なんで僕が怒らないといけないんだ…?
「私が、あんなこと言ったから…怒ってる?」
「怒ってないよ。」
僕だって、死ぬ前に好きな女の子、キミとデートくらい行ってみたいんだ。
「じゃあ、乗って。」
「え?」
自転車の後ろに鈴を乗せて僕は駅に向かう。
伊達にアルバイトしているわけじゃないからね。
お金はあるんだ。
駅について僕は切符を買う。
5駅分乗ったら遊園地と水族館があるから。
「おいで、鈴。」
鈴の分の切符を渡して改札を抜ける。
電車に揺られて僕と鈴は遊園地にやってきた。
「え、輝…」
「びっくりした?」
「なんで…」
「たまにはいいでしょ?」
「学校は?!」
…真面目だなあ鈴は…
「いいじゃん。今日は休んじゃお。」
僕はチケットを買って中に入る。
「ほら、時間はあるから遊ぼう、何に乗る?」
鈴はキョロキョロ辺りを見渡してワクワクしている。
目がキラキラしてて小さい子みたい。
「じゃあ、あれ、乗りたい!」
鈴が指さしたのはメリーゴーランド。
…まあ、心臓の弱い鈴には丁度いいかも。
…だけど高校生がメリーゴーランドって…
「うん、行こう。」
隣ではしゃぐ鈴。
全てが初めてなのか。
歩いているだけで目がキラキラしてる。
メリーゴーランドの後もチュロスを頬張ったりゴーカートに乗ったり…
お化け屋敷に入ろうとした時は流石に止めた。
心臓に悪いから。

「ー…ねえっ、次これ!」
鈴は大きなブランコを指さして僕を見る。
「…うん、行こう。」
持ってきていてよかったデジタルカメラ。
いつも風景しかとらないけど、鈴を撮りたい。
今日だけで鈴を沢山撮った。