「僕、鈴のそばにいたいからいいんだよ。」
鈴。
僕は鈴のこと、好きだよ。
「うん、ありがとう。」
鈴には前を向いて生きて欲しい。
…ブーッ…ブーッ…
「電話?」
「うん。」
誰だろう。
自転車を駐輪場に停めて携帯を取り出す。
“病院”
ディスプレイに記された2文字。
不思議に思いながら僕は電話に出る。
「もしもし。」
『あ、今大丈夫かい?』
電話の主は鈴の主治医の先生。
「はい。」
『鈴ちゃんなんだけど…
彼女の心臓、もう限界なんだ…』
え…?
だって今、目の前にいる鈴は元気そうで…
キョトンとした顔で僕を見上げているのに…
「…そんな…」
『もって後、1ヶ月…だと思う…』
…1ヶ月…
そんな…
鈴と一緒にいられる時間がもうそれだけしかないなんて…
「ごめん、鈴、少し待ってて。」
僕は鈴の頭を撫でてから少し離れる。
声が聞こえないところまで来てから、先生に伝える。
「僕がドナーになります。」
『?!何を…キミは彼女の心の拠り所だろう?』
「もう、辛そうな彼女を見たくない…
後、少し待ってください。」
…あと少しで、絵が描き終わるんだ…
だいぶ完成している。
プラ板サイズのも、キーホルダーにしてラッピングしてある。
あとは大きな方のキャンバスに彼女の表情を描くだけなんだ。
『分かった…』
僕は電話を切って鈴の元へ戻ろうとした。
角を曲がって駐輪場へ向かう。
「お待たせ鈴、行こうか。」
僕はカバンを持って美術室へ向かう。
…後、1ヶ月…
隣を歩く彼女を見ながら僕は中へ入る。
…描くのに必要なものを揃える。
揃ったところで僕は筆を走らせる。
…やっぱり、この構図だったら横顔の微笑みがいい。
でも、僕の好きな鈴の顔は…
満面の笑顔なんだ。
鈴の笑顔が僕の全てなんだ…
…どうしようか…
……
…あっ…
鈴の涙、凄い綺麗だった。
笑っているけど、涙を流す…
あ、これいいかもしれない。
今まで見たどの涙よりも綺麗な涙だったから…
「…」
鈴の方を見る。
バチッと視線が合う。
鈴はノートを開いてシャーペンを持っていた。
「…何してるの?」
「…ん?あ、これ?」
鈴は持っていたノートに視線を落とす。
「遺書、書いてるの。」
「遺書?」
「うん、もう、長くないって自分でもわかるから…」
…悲しげに笑う鈴の瞳はもう、希望を宿していなかった。
「…大丈夫だよ、鈴。」
「大丈夫じゃないよ!知らないくせに勝手言わないでよっ…」
鈴の目には涙が溜まって今までにないくらい寂しい顔をしていた。