その頃、工場に声が届いた。
「ヤンダル。ヤンダル。」
台所で一服していた、ヤンダルは驚き、辺りを見回した。それから、突然大笑いをはじめた。
「そうだった。そうだった。見回したところで、お前の姿は見えないんだったな。」
聞こえてきた声。それは、テミロのものだった。いつの頃からだろう、テミロが時間の流れにさらわれてから、ヤンダルの元に声だけが聞こえるようになっていた。声はいつも一方的にやってくる。ヤンダルにとっては、迷惑な幽霊と言ったところだった。
「頼みがある。」
「ん?頼みってなんだ?悪いが金ならないぞ。」
ヤンダルは、にやけてみせた。しかし、テミロの声は、ヤンダルの仕草を無視するかのように、一方的に続けられた。
「鎌を、もうひとつ作ってくれないか?」
「おいおい、もうひとつって。この間のだって、お代がまだなんだぜ。って言っても、無駄だったな。」
今度は寂しそうな表情になった。
「頼む。」
やはり、言葉は一方的だ。
「わかった。わかった。もうひとつだな。代金はまけておいてやる。その代わり、今度は直接頼み来い。」
涙を浮かべながら、天に向かって言葉を投げ捨てた。その言葉に返事はなかった。