「この一ヶ月、六実の弓道を見ていたのに、その反応か」


部員を一喝したのは、葉山先輩だった。

葉山先輩は私のほうへ歩いてくると、部員の刺さるような視線から守るように背中を向けて、私の前に立つ。


「六実が選ばれたのは、弓道に安定感があるからだ。日で的中率が変わる、というのがない。団体戦で大事なのは、この人がいれば大丈夫だ、という安心や信頼だと俺は思う。だが、お前たちに異論があるなら、話を聞く」


怒るのではなく静かに諭した葉山先輩に、もう反論する者はいなかった。

きっと、 みんなの意見に耳を傾け、平等な目線で物事を見つめられる葉山先輩の人徳だ。

目の前に広がる頼もしい背中をじっと見つめていたら、葉山先輩がくるりと振り返る。


「六実。お前も、自分ならできる、ぐらいの気概(きがい)を持っていいんだ」

「……はい」


でも、本当に私でいいのかな?


葉山先輩は、私を過大評価しすぎだ。

葉山先輩みたいに、どんな状況下でも変わらないパフォーマンスができる自信はない。


「それじゃあ、今日から大会形式で練習を始めるぞ」


葉山先輩の指示にみんなが「はい!」と返事をする中、私はひとりで不安に押し潰 されそうになっていた。

大会出場が決まってから、一週間が経った。

私は射場に立ちながら、見事に的を避けて『安土(あづち) 』――的を取りつける砂山に刺さる三本の矢を見つめる。


どうしよう、また外れた……残り一本。


ひとり四本、チーム合計二十本の矢の的中率を競う大会形式の練習をしていた私は、目の前にいる女子弓道部主将が繋いでくれた流れをことごとく断ち切ってしまっていた。


次こそ、あてないと……。


目の前ではまた先輩が的中し、『皆中(かいちゅう)』といって全ての矢を当てるという安定感を発揮していた。

私も先輩のあとに続かなきゃ、と弓を引き絞り的を見据える。


狙いって、これであってるのかな。


手が震えて、もう自分の〝あたる〞という感覚がわからなくなっていた。


腕も痛いし、焦りも消えない。もう、苦しい……!


早く楽になりたくて、弦から手を放してしまいたくなったとき――。