「楓、ごめんなさいね。あら~、弓道場キレイじゃない」


ハンカチを取りに行っていたお母さんが、戻ってきたらしい。

隣に立つのがわかったけれど、私は彼から視線を逸らせずにいた。


「楓、聞いてる?」

「お母さん」

「……ん?」

「私、ここにする」

「ここにするって……まさか、高校?」


声に驚きが混じったのがわかった。

それでも私は男の子をじっと見つめたまま、もう一度口を開く。


「私、この海風学園の弓道部に入る」


きっと、一目惚れだった。

それは彼の弓道になのか、それとも彼自身になのかは私にもわからないけれど……。

はっきりしているのは、彼が矢を射る姿をもっと近くで見てみたいということ、ただそれだけだった。