「こんな大雨の中、いくら近いからって傘を差さなかったらびしょ濡れになるぞ」


走ってきてくれたのか、息を切らしながら私に傘を傾けてくれる葉山先輩の顔を見た瞬間、堪えていた涙がぽろっとこぼれる。


「六実? お前……」


顔をくしゃくしゃにして泣いている私に、葉山先輩が息を呑んだのがわかった。

私は手の甲でごしごしと涙を拭いながら、なんとか笑う。


「悲しいとか、そういうんじゃなくて……。最近、うまくいかないことばっかりだったから、ひとつでもうまくいったことがあると、泣きたくなるくらいうれしいっていうか……。大げさで、すみません」


ぺこぺこと頭を下げていると、葉山先輩はため息をつく。

顔を上げると、葉山先輩は苦笑いしながら、私に手を伸ばしてきた。


「え……」


驚きながら、その手を視線で追っていると、葉山先輩は私の目尻にたまった涙を親 指の腹で拭ってくれた。


「六実はスランプなんだ。気持ちの浮き沈みがあっても、なんらおかしくない」


泣いてもいいのだと言われているようで、私は余計に涙を止められなくなった。