紅葉色の恋に射抜かれて

「なら……どうしたら、自分自身に勝てますか?」


縋るように葉山先輩を見上げれば、ふっと笑われる。

あまり表情が動くほうではない先輩の笑顔の破壊力といったら、絶大だった。


わ、笑ったの初めて見たかも……。


 不覚にもドキッとしてしまった私は、袴の上から胸をおさえつつ深呼吸をする。

そんな私に追い打ちをかけるように、葉山先輩が私の頭に手を乗せた。


「これで大丈夫。自分はそれだけの努力をしたんだって、そう自信が持てるまで練習しろ。これは俺の実体験だから、やってみる価値はあると思うぞ」

「葉山先輩にも……私みたいなスランプの時期があったんですか?」


必ず大会では三位までに入賞している葉山先輩のスランプなんて想像がつかないな、と思っていると……。


葉山先輩は射場の前まで歩いていき、腕を組みながら的を見据えた。


「俺は一年のとき、スランプ以前に弓道が下手くそだったんだよ。それも新入生の中ではダントツでな。先輩が指導を放棄するほどの才能のなさだった。劣等生 の中の劣等生だって、半ば諦められてたな」


そんなふうに言われたら、きっと私は逃げてる。

だって、部員のみんなから『大会は無理なんじゃないか?』って言われただけで、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

弓を引くたびに頼りないなって呆れられてるんじゃないか、みんなにどう思われてるんだろうって怖くなる。

弓道を楽しむ余裕なんて、ない。